Conference Report

LS2-1

重症筋無力症(MG)診療の最前線

慶應義塾大学医学部神経内科
鈴木 重明 先生

紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

重症筋無力症(MG)治療の現状

重症筋無力症(MG)の治療選択肢は、2000年以降に特に増加し、2014年には日本神経学会により「重症筋無力症診療ガイドライン2014」が作成された。しかしながら、実臨床において、MGの治療方針は施設や医師によって多様で、専門医においても意見に隔たりがある。例えば、MGの免疫療法の基本である経口ステロイド薬にしても、その適応患者や使用量に基準はなく、様々な用量での投与が行われている。ただ、いずれの治療を選択するにしても、患者ごとのADLとQOLを重視した上で、軽微症状(minimal manifestations)の達成を目指した治療を行うことが重要であることに変わりはない。

抗アセチルコリン受容体抗体(抗AChR抗体)陽性MGの最適な治療を行うためには、その発症過程を理解する必要がある。その主要な発生過程は、以下のように考えられている。①免疫寛容が破綻し胸腺から自己反応性T細胞が産生される。②それによりB細胞/形質細胞が活性化される。③活性化された形質細胞から抗AChR抗体が産生される。④産生された抗AChR抗体は神経筋接合部において運動神経終末から分泌されたアセチルコリン(ACh)の筋膜上のAChRへの結合のブロックや、補体介在性の膜破壊を引き起こす。⑤その結果、筋収縮力が低下して、疲労感や筋力低下が生じMGを発症する(図1)1,2)

各々の治療は、この発症過程のそれぞれ異なる段階に作用する。胸腺摘除術は、MG発症の元々の原因となる自己反応性抗体を産生する胸腺腫を摘除する。カルシニューリン阻害薬、経口ステロイド薬、抗CD20抗体リツキシマブ※1は、それぞれ機序は異なるがいずれも免疫細胞の活性化を抑制することにより、病態の原因となる抗AChR抗体の産生を抑制する。血液浄化療法は抗AChR抗体を血液から除去し、免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)は、抗AChR抗体を抑制する。抗コリンエステラーゼ薬は、神経筋接合部において、AChの分解を阻害することにより、ACh濃度を高めて筋収縮の低下を改善する。そして、最も新しい全身型MG治療薬であるエクリズマブは、MGの病態の主たる原因である抗AChR抗体による補体介在性の神経筋接合部における膜破壊を抑制する(図1)1,2)。これらの治療を組み合わせて、MG治療が実施される。

  • ※1 リツキシマブはMGに対して我が国では未承認である。
新たな治療選択肢:エクリズマブ

ヒト化C5モノクローナル抗体であるエクリズマブは最初、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)における溶血抑制を適応として承認され、その後、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)における血栓性微小血管障害の抑制への適応を広げ、2017年12月には全身型MG(IVIg又は血液浄化療法による症状の管理が困難な場合に限る)への適応を取得した。

エクリズマブの作用機序

抗AChR抗体陽性のMGにおいて産生される抗AChR抗体は神経筋接合部のAChRに結合し、補体カスケードの古典経路を活性化し、その後、C3やC5などの多段階のプロセスを経て、シナプス後膜上にC5b-9(膜侵襲複合体;MAC)が過剰に生成される。この過剰に発現したMACは、膜貫通孔を形成することで細胞融解を引き起こし、膜破壊を起こす。このような抗AChR抗体による補体介在性の膜破壊の過程において、エクリズマブは、補体C5に高い親和性で結合して、C5からC5a、C5bへの開裂を阻害することにより、MAC生成を抑制すると考えられている3,4)。さらに、エクリズマブのターゲットはC5であることから、上流にあるC3が関与する免疫機能には影響を及ぼさないと考えられている。しかし、MACが形成されることで髄膜炎菌などに対する免疫力が低下する可能性があるため、髄膜炎菌感染症に対するワクチンの前投与が必須とされている3,4)

エクリズマブの導入例

当院におけるエクリズマブ導入例を紹介する(表1)。23歳女性、18歳で発症のearly-onset MGの患者さんである。MGFA分類クラスⅤ、QMGスコア26、MG-ADLスケール22。MG増悪歴が4回あり、そのうち3回では短期間でクリーゼが起き人工呼吸を実施。四肢・体幹症状に比べて、嚥下障害や構音障害などの球症状が強い。これまでに、抗コリンエステラーゼ薬、胸腺摘除術、経口ステロイド薬15mg/日(最大30mg/日)、カルシニューリン阻害薬での治療を行ってきた。レスキュー治療を年3回、IVIgを4回、血液浄化療法を2回、IVIgと併用してステロイドパルス療法を2回実施した。

このように、考えられるほとんどの治療を行ったが、クリーゼによる1ヵ月以上の入院、強い球症状の出現などによりQOLが著しく低下していた。そのため、これらの改善を期待して、エクリズマブによる治療を開始した。治療開始後に速やかに球症状の改善が認められ、3ヵ月後には旅行に行けるまでに改善した。

エクリズマブを考慮すべき症例の検討

エクリズマブの適応は、IVIg又は血液浄化療法による症状の管理が困難な難治性の全身型MGとされている。また、エクリズマブの難治性の全身型MG患者に対する有効性と安全性は、無作為化二重盲検プラセボ対照第Ⅲ相国際共同試験であるREGAIN試験において検証されている5)。しかし、REGAIN試験では、前述の症例のようにクリーゼを起こすMGFA分類クラスⅤの患者は除外され、対象とされていない(図2)。

そこで、エクリズマブを考慮すべき患者を検討するために、関東の大学病院を中心に、多くのMG患者の診療を行っている専門医を集めて、アドバイザリーボードミーティング※2を行った。アドバイザリーボードミーティングでは、各施設からエクリズマブの投与を検討している全身型MG症例を持ち寄り、各症例の臨床像や治療内容、QOLに関して意見交換を行うとともに、症例を集計して解析を行った。その結果、エクリズマブ投与を検討している症例では、MG-ADLスケールは9前後、QMGスコアは16前後が多かった(図3a)。また、ステロイド投与量は10mg/日を超える患者が多く、年間1~3回のIVIg又は血液浄化療法によるレスキュー治療を行っていた(図3b)。MG患者のQOL低下例では、クリーゼによる入院、MG症状による仕事や日常生活の制限、治療薬の影響による感染などがあることが確認された(表2)。

さらに実臨床においては、胸腺腫関連MGの患者、妊娠(挙児希望)女性など多様な患者に対する治療に向き合うこととなる。そのため、実臨床における多様な全身型MG患者の中から、どのような患者にエクリズマブを使用すべきかについて、今後より明確な基準が望まれる。そしてエクリズマブによる治療が必要とされる全身型MG患者を見極め、適切に使用することが、MGの治療目標である軽微症状の達成と、ADLやQOLの改善につながると考えられる。

  • ※2 アレクシオンファーマ サポート。アドバイザリーボードミーティングに参加した施設 : 慶應義塾大学、国際医療福祉大学、同和会神経研究所、東海大学、順天堂大学、東京女子医科大学、東京医科大学、帝京大学、千葉大学、東京医科歯科大学、東邦大学医療センター大橋病院、北里大学(順不同)
参考文献
  • 1)Melzer N, et al. J Neurol. 2016, 263: 1473-1494.
  • 2)Conti-Fine BM, et al. J Clin Invest. 2006, 116: 2843-2854.
  • 3)Walport MJ. N Engl J Med. 2001, 344: 1058-1066.
  • 4)Rother RP, et al. Nat Biotechnol. 2007, 25: 1256-1264.
  • 5)Howard JF Jr, et al. Muscle Nerve. 2013, 48: 76-84.

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