Conference Report

LS9-1

重症筋無力症における補体の関与とソリリスの作用機序

千葉大学大学院医学研究院 脳神経内科学
鵜沢 顕之 先生

重症筋無力症(MG)の病態における補体の関与

MGは、抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体などの自己抗体が産生されることにより発症、悪化する自己免疫性疾患で、臨床的には変動や易疲労性を伴う筋力低下を特徴とする1)

抗AChR抗体陽性MGの発症機序は、まず胸腺などにおいて自己反応性T細胞が産生されることにより、B細胞・形質細胞が活性化され、抗AChR抗体が産生される。さらに、産生された抗AChR抗体は神経筋接合部の膜破壊などを引き起こし、それにより生じる伝達障害が筋肉の収縮力を低下させ、易疲労性を伴う筋力低下が起こるというプロセスによるものである。このプロセスにおける抗AChR抗体による膜破壊や伝達障害には、補体系の活性化が強く関与している(図1)2)

抗AChR抗体による神経筋接合部の伝達障害には、3つの機序が考えられている。1つ目は抗AChR抗体がAChRに結合して、アセチルコリン(ACh) のAChRへの結合を阻害する、2つ目は抗AChR抗体がAChRと架橋を形成して、AChRの内在化と分解を引き起こす、そして3つ目は抗AChR抗体による補体系の活性化が膜破壊を引き起こすものである(図2)3)

補体系の活性化とエクリズマブの作用機序

補体系の活性化とC5b-9(膜侵襲複合体;MAC)生成

補体系は病原体を排除する際に抗体および貪食細胞を補助する免疫システムで、病原体のオプソニン化、炎症細胞の遊走の誘導、細胞膜の破壊などに関与している。補体系には3つの活性化経路があり、①古典経路は抗原抗体反応により活性化、②レクチン経路はレクチンが病原体の表面の多糖類を認識することにより活性化、③第二経路の活性化は補体C3のspontaneous hydrolysisがトリガーとなり、形成されたC3bが病原体の表面に結合する4,5)

これらの経路の活性化は、いずれもC3変換酵素を生成し、そのC3変換酵素により生成されたC3aは血管透過性亢進、好中球遊走・炎症、アナフィラキシーなどに関与し、C3b はオプソニン化(好中球、マクロファージの貪食能増強)などに関与している。その後、いくつかの段階を経て補体C5が開裂し、C5aとC5bが生成される。C5aは好中球遊走・炎症、アナフィラキシーなどに関与しており、さらにC5b-9(MAC)は細菌の細胞膜の破壊に関与している。

抗AChR抗体による補体系の活性化とMACによる膜破壊

MGにおいて産生される抗AChR抗体は、神経筋接合部においてシナプス後膜上のAChRに結合し、補体系の3つの活性化経路のうち主に古典経路を活性化する(図3)。その後、C3やC5などのプロセスを経て、シナプス後膜上にMACが過剰に形成される。MACは本来、細菌の細胞膜を破壊する役割を持つが、MGでは、過剰に形成されたMACがシナプス後膜に膜貫通孔を形成して細胞を融解し、膜破壊を引き起こす4,6)

実際に、MG患者の神経筋接合部においてMACの発現7)、IgG、C3の沈着8)や運動終板の破壊、補体C9の沈着が見られること9)などが報告されている。また、MGモデルラットにおいて、C5阻害薬が神経筋接合部のC9の沈着を抑制することも報告されている10)

エクリズマブの作用機序

抗AChR抗体により古典経路が活性化され形成されたMACによるシナプス後膜の膜破壊のプロセスにおいて、ヒト化抗C5モノクローナル抗体であるソリリス(一般名:エクリズマブ)は、C5に高い親和性で結合して、C5からC5a、C5bへの開裂を阻害する。それにより、エクリズマブは過剰なMACの形成を阻害することで膜破壊を抑制し、全身型MGを改善すると考えられている。エクリズマブのターゲットはC5であることから、上流にあるC3が関与する一般細菌に対する免疫機能には影響を及ぼさないと考えられている。しかし、MACの形成が阻害されることで、莢膜を持つ髄膜炎菌などに対する免疫力が低下する可能性があるため4,6)、エクリズマブの投与開始前には髄膜炎菌に対するワクチンの接種が必須とされている。

エクリズマブの臨床効果

エクリズマブは本邦において、2010年に発作性夜間ヘモグロビン尿症における溶血抑制を適応として承認され、その後、非典型溶血性尿毒症症候群における血栓性微小血管障害の抑制への適応を広げ、2017年12月には全身型MG(免疫グロブリン大量静注療法又は血液浄化療法による症状の管理が困難な場合に限る)にも適応を広げている。

エクリズマブの有効性と安全性は、抗AChR抗体陽性で難治性の全身型MG患者※1125例を対象とした第Ⅲ相国際共同臨床試験であるREGAIN試験において検討された。REGAIN試験の主要評価項目である26週におけるMG-ADL※2総スコアのベースラインからの変化量について、投与1週目からエクリズマブ群とプラセボ群に有意差が認められ、26週目においても有意差が認められた(それぞれp=0.0125、p=0.0058、反復測定モデルによる感度分析、図4a)。副次評価項目である26週におけるQMG※3総スコアのベースラインからの変化量も、投与2週目からエクリズマブ群とプラセボ群に有意差が認められ、26週目においても有意差が認められた(それぞれp=0.0071、p=0.0006、反復測定モデルによる感度分析、図4b)11)。このように、エクリズマブにより全身型MG患者の日常生活動作および重症度の指標は早期から持続的に改善することが示されている。

まとめ

MGの病態において補体系の活性化は重要な役割を持っている。2017年12月には、補体をターゲットとした初めてのMG治療薬として、抗C5モノクローナル抗体エクリズマブが抗AChR抗体陽性で難治性の全身型MGに対して適応を取得し※1、治療選択肢が拡大した。従来の治療とエクリズマブによる治療をどのように使い分けるか、またそれにより、どのように軽微症状(Minimal Manifestations; MM)を目指した治療戦略を立てるかを検討することが、今後の重要な課題である。

  • ※1 エクリズマブの効能・効果は「全身型重症筋無力症(免疫グロブリン大量静注療法又は血液浄化療法による症状の管理が困難な場合に限る)」(抜粋)である。
  • ※2 MG-ADL:Myasthenia Gravis Activities of Daily Living profile
  • ※3 QMG:Quantitative Myasthenia Gravis score for disease severity
引用文献
  • 1)Meriggioli MN, et al. Lancet Neurol. 2009, 8: 475-490
  • 2)Melzer N, et al. J Neurol. 2016, 263: 1473-1494
  • 3)Conti-Fine BM, et al. J Clin Invest. 2006, 116: 2843-2854
  • 4)Walport MJ. N Engl J Med. 2001, 344: 1058-1066
  • 5)北村肇. 補体学入門-基礎から臨床・測定法まで-. 学際企画 2010, 20-37
  • 6)Rother RP, et al. Nat Biotechnol. 2007, 25: 1256-1264
  • 7)Engel AG, et al. Ann N Y Acad Sci. 1987, 505: 326-332
  • 8)Engel AG, et al. Mayo Clin Proc. 1977, 52: 267-280
  • 9)Sahashi K, et al. J Neuropathol Exp Neurol. 1980, 39: 160-172
  • 10)Soltys J, et al. Ann Neurol. 2009, 65: 67窶骭€75
  • 11)Howard JF Jr, et al. Lancet Neurol. 2017, 16: 976-986

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